介護日記

 

 2009年8月4日 遭難

 いろいろ忙しくて8月になりました。
 8月は鎮魂の月、祈りの月だけど、総選挙でそんな雰囲気でなくなりそうです。

 異常気象で北海道は6月も7月もほとんど太陽が出ません。曇っていても暖かければ散歩ぐらい出来るのですが、風邪をひかせると困るので、なかなか良い日を見付けられません。そんな中を、知人に手伝ってもらって、地下鉄に乗って車椅子散歩をしました。
 1回目は地下鉄南北線の幌平橋駅で降りて、札幌市の真ん中の豊平川から取水して中島公園の脇を流れて、人工の古い創成側に合流する鴨鴨(かもかも)川でした。
 碁盤の目のように区切られた札幌市の中心部をくねくねと流れ、しだれ柳が川面に映って、このあたりは私の学生時代と同じです。1.5キロメートルぐらいあるでしょうか。反対側にあった高級料亭らしきものは、大きなホテルに変わっていたから、時代の波で廃業したのでしょう。
 2度目も地下鉄で行って、豊平公園駅のエレベーターを上がったところが原始林の一角です。札幌の地下鉄はやっと全駅エレベーターが付いたので、今度は北大の原始林です。古い建物は随分新しくなったけれど、昔からの原始林とローン(芝生)は昔のままです。
 外の風に当たると和子は気持ちよさそうです。五感で残っているのは、聴覚と嗅覚だけのようなので不思議ですが。

 先月の半ば、大雪山系のトムラウシ山周辺で9名、もっと南の美瑛岳で1名、合計10名の方が亡くなりました。北海道の夏山では、初めての大事故です。私のホームページのメニューの中に、『北海道でとりくんだこと』というサイトがあり、札幌西高山岳部の部報に書いた一文があります。

 遭難

 今度の事故はツアー会社企画の縦走という、本来あってはならないツアーの結果でしょう。停滞の予備日ももうけない縦走などは問題外です。今度の事故はヒサゴの避難小屋を出てから起きました。その時点で疲れ切っていた人も含めて強行出発。小屋にとどまれば救援を待つことも可能だったでしょう。しかしこの避難小屋は窪地にあるので、携帯電話の電波は届かないでしょう。アマ無線という山でも使える無線機はあるけれど、ガイドも持っていなかったようです。

 そして忠別岳を越えて縦走路の五色岳まで来れば、もう避難ルートなどはないのです。その先の化雲岳から天人峡温泉に下るルートはあるけれど、雨が降れば泥濘になる12キロ、標高差1000m近いコースは、疲れ切った中高年の方には無理です。
 私は浦河・札幌南・札幌西の山岳部の生徒を引率して10数回、北から南からトムラウシに行っているけれど、晴れた時は3回に1回ぐらいです。だいたい体力差のある人を10人以上も束ねての縦走ツアーなどは無謀そのもので、「未必の故意」としか思えません。

 もう一つ。深田久弥の『日本百名山』が刊行されたのは1964年です。10数年前にNHKが週1回だったか、その百名山にカメラを上げてドキュメンタリー番組を作りました。お金の潤沢なNHKだからできたのでしょう。今回の事故のような嵐の日もあったでしょう。でも放送された作品は、それこそ晴れた山ばかりでした。そしてそれが百名山ブームに火をつけました。制作したスタッフ達は満足だったでしょう。でも映像作品は一人歩きするのです。放送したものが残した社会的影響まで考えたのでしょうか。
 「これで95番目です」とか、「あと三つで百名山達成です」と言う可笑しな登山者に何回も会いました。日本にいい山は何百もあります。どうして自分の百名山を作らないのだろうと不思議でした。
 深田久弥が生きていたら嘆くでしょう。


和子の近影

お友達と豊平公園で

鴨鴨川の散歩

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