介護日記

 

 2009年6月14日 「美しい5月」は?

 今年は天候が不順で、万物が萌え立つ「美しい5月」はいったいいつ過ぎたのだろうと思いました。

 シューマンの歌曲集「詩人の恋」の第1曲目に『美しい5月に』があります。これは同時代のドイツの詩人ハイネの「歌の本」に曲をつけたものです。『美しい5月に』は2分足らずの短い曲ですが、和子が好きで、いつも歩きながら口ずさんでいました。
 小樽に住み始めたのが1994年、2年ほどでピアノが弾けなくなり、字も読めなくなりました。だから彼女がドイツ語の原詩で、歩きながら歌えたのは2年ぐらいだったでしょうか。

 山合いに建つマンションで、まわりの雪が融け、ふきのとうがが芽を出し、福寿草の黄色い花が雪の中から顔を出し、本当にこの曲が季節の変化に似合った曲でした。

    美しい五月になって
     すべての蕾がひらくときに、
      私の胸にも恋がもえ出た。

    美しい五月になって
     すべての鳥がうたうときに、
      私はもえる思いを
       あの人にうちあけた。

 全部で20曲になるこの連作歌曲は、最後は失恋に終わるみたいだけど、「今年も5月だなあ」と思いながら日が過ぎて6月になってしまいました。暖かくなったり、強風が吹いたり、雪が降ったりで、車椅子散歩も4回しか行っていません。15分で行ける道立近代美術館に3回と、隣の知事公館の敷地内にある三岸好太郎美術館です。

 いつも一緒に行ってくれる知人と、地下鉄に乗って「緑があって空気が美味しいところ」をと考えているのですが、まだ実現していません。リラ冷え(リラはライラックのフランス語)という言葉があるけれど、大通公園のライラックまつりはとっくに終わり、行った人の話では皆さん寒くてふるえていたそうです。

 イスラエル軍によるパレスチナのガザ地区への猛爆は少し落ち着いたようだけど、イスラエル側の死者十数人に対してパレスチナ側の死者(ほとんど民間人)が千数百人というのは、もうジェノサイド(虐殺)というしかありません。ずっと昔見た『十戒』という映画を思い出しました。旧約聖書の「創世記」の次の「出(しゅつ)エジプト記」の部分を映画化したスペクタクル映画でした。預言者モーゼがエジプトに捕らわれていたヘブライ人奴隷たちを率いて、「約束の地」へと導く、途中の紅海の水が退いて底に道ができ、ヘブライ人達が渡り終えた直後、追ってきたエジプト軍に紅海の水が流れ込んで全滅するという物語でした。何せ、遺跡として残っているギリシャ・ローマ時代以前の神話の世界の話です。

 もう一つ、『栄光への脱出』(エクソダス)という映画もありました。第二次大戦のあと、戦前からこの一帯を委任統治としてきたイギリスが、ユダヤ人達をキプロス島に集めて、貨物船に乗せて出航させ、イスラエルに上陸させたという物語でした。
 人間の歴史の中で、古代神話も含めて、闘いの名目に神の名が使われなかったことは殆どありません。その一番大規模な例は1096年から200年8回にわたってカトリック諸国が聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍でした。
 おびただしい血がが流されたことでしょう。前のローマ法王が現地に行って、十字軍のことを詫びたということもありました。

 神話の世界の話で、モーゼに神が「約束した土地」にユダヤ人の国を作る為に、在米ユダヤ人の援助などもあって武力では圧倒的に勝るユダヤ人国家を作りあげました。人口では圧倒的多数を占めるパレスチナ人との幾たびもの闘いの末、1967年の第三次中東戦争でエジプトを中心としたアラブ連合軍が敗退しました。
 いろいろな経緯があって、パレスチナ人はヨルダン川西岸とガザの狭い地域に押し込められ、そのガザで今度の虐殺が行われたのです。

 書きたいことはいっぱいあるけれど、次回にします。和子は来週から10日あまり、ショートステイに入ります。その間に私は79歳になります。歳をとったという実感はないけれど、疲労がなかなか回復しません。ショートステイの期間中、ゆっくり体を休ませます。


和子の近影

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