介護日記

 

 2008年3月10日 東京大空襲満63年の日に

 札幌は2月末に毎日雪が降り、除雪が追いつかず、道路や交差点は雪の山です。夜は氷点下、日中は気温が上がるので歩道の雪もシャーベット状態、和子の車椅子散歩はまだまだ先になりそうです。

 一昨年の秋、私は白内障の手術をしました。手術後、「世の中が明るく見える」ことを 実感しました。でも古い水晶体を取り除いて入れ替えた人工レンズは固定焦点なので、眼鏡でそれなりの対応をしているけれど、夜間の車の運転はしないようにしています。
 教え子が行っている手稲の教会の、クリスマスの時期のメサイア・コンサートに、 私はバスのパートを歌いに、和子を付き添いで連れて3年続けて参加しました。でも和子の病気が進んで、私の目のこともあり冬の外出は控えるようになって、ここ2回は行っていません。

 今年の初め、その教会の信者でプロのヴァイオリニストの方から、「和子さんが来れないなら、こちらから出張コンサートみたいな形で和子さんに生の音に触れていただくような機会は持てないかと考えているところです」という思いがけないメールがきました。
 そしてうるう2月29日の午後、このプレゼントの出前コンサートが実現しました。

 このマンションの5階の3LDKのリビングで、2年ほど前から院長の肝いりで、休日の午後、プロの演奏家のボランティアコンサートが開かれていました。デイサービスはお休みなので、ご近所の方達が30人ぐらい常連でいらしていました。今回は平日の午後なので、そのヴァイオリニストと彼女のお知り合いのプロのピアニスト、それに教会関係者が数人、そして2階でやっているデイサービスの利用者の方が十数人、介護のスタッフやナースも入れて、聴衆は20数名になりました。

 曲目はベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第5番、スプリングソナタと呼ばれる、 春の到来を予感させる明るい曲です。ベートーヴェンのソナタの中で、いちばん親しまれている曲でしょう。2曲目はシューマンのピアノ曲集「子どもの情景」から、 これもよく知られている「トロイメライ」でした。ドイツ語のトラウム:夢から派生した“夢見ごこち”という意味です。3曲目はブラームスのヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」の第1楽章でした。この曲は第3楽章に彼の歌曲「雨の歌」が使われているので、全体が「雨の歌」と呼ばれています。

 デイサービスの利用者の方は和子より高年齢の方が多いし、日頃クラシック音楽に接する機会のない方が多いのでしょうが、それでも心地よく聴いて頂けたと思います。痰の吸引機も用意して頂いたのですが、和子は痰のからみもなく、40分を無事聴き終えました。ヴァイオリニストの方が、ベートーヴェン、シューマン、 ブラームスと20歳ぐらいずつ歳が違って現れた3世代の違いを解説されていました。私の余計な蛇足を付け加えれば、この日の音楽会は古典派からロマン派への移行期の音楽会でした。

 和子は元気です。大脳の神経繊維が消失して脳脊髄液で満たされ、海馬も痕跡だけというCT所見では信じられない程、顔の表情も普通で色艶も良く、健康に見えます。血液検査も全く問題ありません。
 食事はメーカーが出している栄養剤ではなく、私と同じ物をミキサーにかけて、裏ごしをして胃瘻のボタン孔から注入チップで入れています。手間はかかるけれど、それが元気のもとだと思うので。
 そして1日の半分は車椅子で過ごさせていること。内臓の病気ではないのだから、ベッドにいる理由はありません。車椅子でも眠っていることが多いのだけど。

 以前にきてくれていた理学療法士のスペシャリストの話では、体に負荷をかけないで寝ている状態が、いちばん良くないということです。若年性アルツハイマーの方の死因は、大半が感染症です。ベッドに寝ている状態がいちばん無防備な状態だということがわかります。和子が尿路感染で救急車で入院してから満2年無事に過ぎました。毎日車椅子散歩ができる春が待ち遠しいです。

 地球温暖化や、原発銀座の地下の活断層や、いろいろ問題はたくさんあります。私たちが生きている間に地球は人間も含めて動植物が住めない天体になるのではないかという危惧さえ感じます。いろいろ書きたいけれど、また次の機会に。

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