介護日記

 

 2007年8月1日 「おごれる人も久しからず」

 与党が負けるとは予想がついていたけれど、これほど大敗するとは・・・。平家物語の冒頭の一節が頭に浮かびました。私は古い世代だから、「バチが当ったのだ」とも思います、国民を愚弄したバチが。
 作家の辻井喬が、「子分を一人でも多く閣僚にしようという計算で、自民党全体のことなんて考えていない。まして国家の将来なんて頭の片隅にもない」と言っています。本当にそのとおりだと思います。

 社民党の福島党首が、安倍総理のことをを「ボクちゃん」と連発していたけれど、毛並みが 良くても、鈍感な大人は死ぬまで直らないのかも知れません。この何年間の間に、日本 がどんなにひどい状態になってきたか、敏感ならわかる筈です。

 こんなに国民の注目を集めた選挙でも、投票率は60%を切っています。棄権した中には、和子のように棄権せざるを得ない(目が見えないし、意思表示もできない)少数の人は居るだろうけれど、パラサイト・引き籠もりの若者だけでなく、会社が倒産したりして突如クビを切られた働き盛りの中年、家庭が崩壊してマンガ喫茶やインターネットカフェで暮らし、仕事のある時だけ働きに行く、もはやドヤ街に定住する余裕もないワーキングプアが激増しているのも、ここ何年かの現象です。

 そんな人達が、「改革・美しい国」などと連呼する与党に入れる筈がないことは明らかです。この国は「先の見込みのない、暗い国」です。

 「おにぎりが食べたい」と書き残してミイラ化した遺体で見つかる、そんな先進国などないでしょう。弱肉強食のアメリカには宗教団体の炊き出しなんかがあるらしいけれど、無宗教国家の日本は餓死するしかないのかと思います。先進国家と言われるためのメルクマールであるセーフティーネットが、この国には全くありません。

 フト妙なことを考えました。和子が若年性アルツハイマーと診断された十数年前、「和子は100年早く生まれてしまった」と思ったことがあります。でも私も和子も、あと30年も生きないことを考えると、少なくとも自分たちが悲惨な老後を向かえる前に居なくなるのは救いなのかも知れないと。

 毎週、土日と続けて2日介護オフになるので、私の腰の負担も大きいし、ケアマネに探してもらったら、コムソンが土曜日に来てくれることになり、もう3ヶ月になります。これは介護保険制度を始めた民主党の菅・元厚生大臣にも聞いてみたいところだけど、365日無休・24時間サービスという介護保険のうたい文句通りにやっている業者がコムソン一社だけで、そのコムソンが不正受給をしていたということは、基本的にこの事業が採算に乗らない事業なのではないかと、私には思えてくるのです。

 ロッキード事件の鬼検事だった「さわやか福祉財団」の堀田力氏が、介護保険事業のことを、日本の経済全体を底上げする何百億円産業になると、バラ色の予測をしていたことを忘れません。それを聞いたとき、「この人、甘いなあ」と思ったことも忘れません。実際に家族を介護していないから、こんな気楽なことを言えるのだろうと。
 『母に襁褓(むつき)をあてるとき』という著書で、壮絶な家庭内戦争を描いた舛添要一氏の方が、はるかに説得力がありました。

 うちに通ってくるコムソンのヘルパーから聞いたけれど、そこの事業所では夜中の巡回サービスもやっていて、ときには前の夜の仕事が明けて次の朝の仕事が始まるまで、3時間しか無かった時もあったそうです。そしてこの業界は介護ヘルパーが毎年三分の一は辞めていくのです。薄給で先の見通しがないからです。

 厚生労働省がハコモノ:施設サービスから在宅サービスに方針を変えても、そのサービスの担い手が、将来に希望を持てずに辞めていくのです。職員の場合も給料は低く(和子が前に居た特別養護老人ホームでケアワーカーに聞いて驚きました)、パートにいたっては、いま議論になっている最低賃金レベルです。これが、経済大国日本が、70年以上働き続けて日本の経済成長を支えてきた先輩・高齢者に提供する介護サービスです。

 私は朝1回だけの介護サービスだけで、あとは全部自分でやっているけれど、有料老人ホームやグループホームを利用すると、私の年金はほとんど無くなります。屋外にテントでも張って、和子の基礎年金だけで生きていくしかなくなります。私は教員歴31年しかないので、ストレートで大学を出て教員を38年やった人より年金額がかなり低いのです。でも親方日の丸と言 われてきた公務員の共済年金ですから、恵まれている方だということは知っています。自営業の人のように、基礎年金しかない人が、要介護の状態になったら、悲惨な老後 というしかないでしょう。

 ともあれ和子は、内科的には問題なく、元気です。70歳になったのに血色も良く、皺もありません。メーカーが作っている完全栄養剤(薬品扱いなので、1割負担ですみます)ではなく、手間暇かかるけれど、私と同じ「人間の食い物」を食べているせいだと思っています。
 教え子Kが理事長をしている医療法人の療養型病棟に時々10日程度和子を社会的入院をさせて、私の介護休暇を取っていることは前にも書きました。2ヶ月に1度程度ベッドが空いたとき、その病院の相談員から電話があるのですが、ここのところ和子の皮膚の状態が芳しくなく、せっかく連絡をもらったのに、2度辞退しました。利用を待っている人はたくさん居るので、ベッドはすぐふさがります。
 皮膚の状態はカンジタというカビや、原因不明の水疱や、褥創です。自分で寝返りをうつことが全くできないので、圧力がかかっている部分にすぐ褥創ができます。訪問診療にきてくれる皮膚科の医師の指示で、ステロイド剤の飲み薬や軟膏を使って、少しずつ良くなってきています。暑い夏は二人とも大好きなのですが、汗はかくので、和子の皮膚には良くないのでしょう。皮膚科の医師は、もう少し安定するまで療養型病院の利用は待った方がいいということで、私はまだ慢性寝不足の解消の機会がありません。もしべっどが空けば、お盆過ぎにはと皮算用しています。

 新潟県中越沖地震のこと、中でも【柏崎刈羽原発中枢部「変形」】のことも書きたいのですが、長くなるので次回にします。

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