介護日記

 

 2006年3月29日

 北海道にもやっと春の兆しが見えてきました。
 1月が低温続きで、2月初めまで1ヶ月間、病院に通うのも辛かったのですが、札幌の雪は3月になって急速に融け始めています。でもまだ風が冷たく、今日はみぞれが降っています。道東は今週後半雪マークです。まだまだ、「春は名のみの風の寒さや」です。
 
 和子の褥そう(左腸骨下の大転子部)は、ずいぶん良くなってきました。それでもまだ退院から2ヶ月、「半年はかかります」と病院の外科医に言われたのだから、順調な回復というべきなのでしょう。

 車椅子に乗れないので、ここのデイサービスはずっとお休みのままです。昼食は私と同じように実費負担でサービスを受けています。毎朝ヘルパーの身体介護、週3回ナースの訪問介護があるけれど、交代なしの事実上24時間の在宅介護です。不定期の夜中の痰の吸引もあり、改めて介護は肉体労働だと実感しています。近くの買い物以外、長時間は出歩けないので、手稲渓仁会病院の教え子の主治医に受診するのは無理になり、相談して、ここのクリニックに短期間転院の形にしました。いつまでも寒さが続くせいか、心臓のアタックもたまにあり、ニトロを手放せません。やはり典型的な冠れん縮型狭心症です。

 「オウム真理教松本被告の控訴棄却、死刑確定の公算高まる」というニュース。
 地下鉄サリン事件で地下鉄職員の夫を亡くした夫人が、「(自分が)生きているうちに、きちんと(死刑)確定の言葉を聞きたい」とテレビで言っていました。
 しかし、松本サリン事件で、はじめ犯人とされた河野さんは、重い障害が残り寝たきりの妻に「澄子さん、こんな状態になっちゃったでしょ、それが本当に何で起こったのか、どうしてこんな目に遭ったのか、そういうものが判らないまま死刑が確定する可能性がある。澄ちゃんは良かったのかな、それとも何も判らないから残念なのかな」と控訴棄却のことを語りかけている映像もありました。
 私も和子に語り続けているけれど、「もの言わぬ和子は何を思うや」と、時々思います。和子が全く言葉を失ってからまる3年余りですが、松本サリン事件は12年前です。彼は12年間も澄子さんに語り続けているのだと思うと、胸が熱くなりました。

 「4歳男児“割り箸事故”に無罪判決」。
 東京地裁は44回目の裁判の末、業務上過失致死罪に問われた杏林大学付属病院の担当医に、「被告は十分な診察を怠り“過失”があるが、正しく診断できたとしても『命を救うことは困難』」と判決理由です。しかし「脳にささったままの割り箸を見付けて手を尽くしたけれど亡くなった」のではなく、「大丈夫だから」と 帰宅させたのは、「未必の故意」ではないのか。しかも裁判所は担当医のカルテ改ざん行為を認めた上での「無罪判決」です。
 私は医者の息子ですが、鉄道診療所で唯一の医者で、毎日訪れる数十人の鉄道員・家族を相手に何でもこなしていた父親が、こんな事件で罪を問われたとしても、息子として仕方がないと思います。

 私は思うのだけれど、片方では控訴審が1度も開かれないまま控訴棄却、片方は44回も公判を重ね、医師の過失を認めながら無罪判決。アーレフの広報部長の「どうして、こんなに急ぐのでしょう」というコメントも、その限りでは納得できます。
 松本の河野さんが病床の妻に語りかけた、「それが本当に何で起こったのか、どうしてこんな目に遭ったのか、そういうものが判らないまま死刑が確定する可能性がある」ということは、法治国家の裁判の権威を損なうものだと思います。

 先進国と言われる国で、死刑制度が残っているのは、日本とアメリカの一部の州だけです。きちんと審理を尽くし、生涯かけて罪を償わせるのが、今や先進国資格の要件です。日本がヨーロッパだったら、EUへの加盟は不可能でしょう。

 フランス全土がゼネストに入っています。政府が決めた 【CPE=初期雇用契約】に対して、学生と労働組合は28日を「国民行動デー」としてゼネストを呼びかけ、全国が麻痺状態に「なっています。
 「26歳未満の若者を、採用から2年間は理由を示さずに解雇できる」というひどい制度です。若年層の失業率が22.8%、移民系の若者の失業率は40%。ルモンドの世論調査では、CPEの不支持率は国民の63%。日本は失業率は数%だけど、フランスなどでは例をみない膨大な数の季節労働者、1年ごとの短期雇用、フリーターも就業率に加えた、まやかしの数字です。果たしてどちらの国が若者に将来を約束しているのか。私は「親方日の丸」の地方公務員生活31年で、年金は現役大卒38年勤務の元同僚達よりかなり低いけれど、和子の障害年金と合わせて何とか生活しています。
 私は恵まれていると思うけれど、国民の格差は広がるばかりです。「100円ショップに無いものだけを、他のスーパーで探す」という人もいま す。ライフワークだった教員生活を振り返って、いま私が現役だったら、生徒たちに、どうやって未来を語れるのだろうと思います。

 金沢地裁が志賀原発の運転を差し止める判決を出しました。今の安全基準は何十年も前に決めた基準です。しかし地震学が進歩し、断層の危険度もはっきりしてきました。あれだけの犠牲を出した阪神淡路大震災にしても、あの地域が断層の真上にあることは、そんなに知られていなかったのです。裁判長は事故が起きたらその被害は計り知れない、ということを判決理由で述べています。

 経済産業省が28日、四国電力の伊方原発3号機(愛媛県伊方町、出力89万キロワット)で導入を目指しているプルサーマル計画の実施を許可しました。プルサーマルの導入で地元同意が得られているのは、つい先頃の九州電力の玄海原発だけです。経済産業省がゴーサインを出したのは6基目だけど、4ヶ所は地元は同意していません。
 世界の先進国がどんどんプルサーマルから撤退を始めているのに、日本だけどうしてこんなに強引に原発最前線を突っ走るのか、理解に苦しみます。
 経済産業省や原子力安全委員会は、日本列島が地表を覆う数枚のプレートがせめぎ合っている、世界有数の危険な場所であること、日本中が断層の上に乗っかっていることを知らない筈はないのに。
 片方では、迫り来る関東や東海地震に対する対策は進んできています。東京で直下型地震が起きたときのシミュレーションが出した推定死者数や帰宅難民の数字は怖ろしくなります。ずっと前、『東京に原発を』という本を書いたノンフィ クション作家がいました。もちろん、そんなに安全だというのなら東京に原発を造ったらどうだ、という皮肉だけれど、今や日本中の原発銀座と言われる地域で、断層の危険がない地域などないのです。だからこそ、金沢地裁は判決で警鐘を鳴らしたのでしょう。
 上級審ほど悪くなることが多い日本だから、この判決も上級審で覆るかも知れません。

 北海道に桜前線が到着するのは1ヶ月以上先です。桜が咲いたら、「風薫る5月」です。和子の褥そうが良くなり、車椅子散歩ができる日が待ち遠しいです。

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