介護日記

 

 2005年6月1日 病床日記 その1

 北海道はもう初夏です。でもやはり天候は異常で、25度を超える日が何日も 続きました。7月上旬の気温だそうです。

 『気象庁気候変動監視レポート2003』という資料があります。その中に、

 「地球の平均海面水位は20世紀中に0.1〜0.2m上昇しており、    更に21世紀末までに最大約0.9m上昇すると予測されている

とあります。地球の平均海面水位が0.9m上昇するというのはそら恐ろしい予測で、日本だけでも、東京・大阪・名古屋を初めとする海岸に面している大都市の海水面が1m近く上昇すれば壊滅的事態です。 この春の異常低温続きという現象と、温暖化によって極地の氷が融けて平均海面水位が上昇するというのは、実感から言えば逆の話のようだけど、いずれにしても地球の循環系がおかしくなってきているのは確かでしょう。21世紀末まではまだ間があるけれど、数世代あとのことですから現実的な話です。このままでは、その頃の地球は生物が住めない天体になってしまうという予測ですから。

 さて、和子が先月の26日に入院しました。病名は「抗てんかん薬アレビアチンによる“薬疹”の疑い」です。数ヶ月前から和子に「眼振(目を左右に振る)」と「首振り」のてんかん現象が起きていて、長くても数十秒なのですが、その治療のために服用し始めていた抗てんかん薬アレビアチンによる発疹らしいのです。最初はポツポツと赤い点状の発疹だったのが、1週間程して(その間皮膚科の往診は受けていたのですが)、一気に体中に広がりました。足の裏は大きな水疱ができて、足全体が紫色に変色しました。その他に手と両腕と首のあたりで、不思議と顔には出ていません。
 皮膚科の往診医から入院治療が必要と言われたのですが、和子は要介護5の患者で、自分の今の状態を相手に伝えるすべを持っていないので、介護力のある病棟でなければ無理だと私は考えました。月〜金の毎日昼間の数時間は1階下のフロアのデイサービスを利用しているけれど、それ以外の時間は私が付ききりで介護をしています。食事(ミキサー食)から排泄・そして、時を嫌わずやってくる痰がらみがあるので、吸引機で引いてやらなければなりません。 そこまでやってくれる皮膚科病棟はないだろうと思い、内科で全身の状態を管理してもらいながら、皮膚科の受診もできるという白石区の病院を、和子の主治医であるここのクリニックの院長が苦労して探してくれました。

 前にも書いたけれど、教え子の一人が「和子さんは本当に音楽が最後の窓を開けているのですね」とメールで書いてきました。秋10月の東北旅行のビデオを見た感想ですが、そんな和子に、せめて音楽を聴かせたいと思って、差額ベッドの個室をとってもらいました。ラジカセを運んで、モーツアルトのヴァイオリンと管楽器のための協奏曲7枚組のCDを毎日かけています。そして日曜日の帰りレコード屋に立ち寄り、グレゴリアン聖歌集10枚組1700円というびっくり価格のCDを買いました。昨日からはそれをかけています。
 私は毎日地下鉄で通い、夕食を挟んで数時間一緒に過ごしています。院内を歩くことはできるので、少しお化粧もして、車椅子で散歩をしています。食事は個室なので私がミキサーにかけて・・などと考えていたのですが、栄養士が何度も病室にきてくれて、ミキサー食のとろみの程度を打ち合わせ、全部を裏ごしにしてくれることになり、私はナースが注入するのを見ているだけです。
 痰の吸引は私が居るあいだは自分でやっています。家にあるポータブルの吸引機のようにうるさくないので、ゆっくりやれます。どこの病院もそうだけど、夜勤時間帯はナースが少なく、たった3人のナースでフロアの全病室を対応しなければならず、忙しそうです。食事の注入が終わった後は何度か痰の吸引をして、和子が眠ってから帰ります。

 往診をしてくれた皮膚科の医師が発疹を見て「痒くないんでしょうか」と言いました。和子は痛覚を無くしてしまっていることが、1ヶ月ほど前にはっきりしていました。3年前の入院の時、体中が硬直して歯を食いしばったのでしょう、下の前歯3本がぐらぐらになりました。小樽の歯科に何度か通ってボンドで固定してもらったのですが、すぐボンドがはがれて、またぐらぐらになる、という繰り返しでした。
 相談して、ぐらぐらの3本を抜いて入れ歯を作ることにして、先日小樽の歯医者さんが、札幌の自宅に帰る道を遠回りして来てくれました。和子はベッドの上でぱっちりと目を開けて、まるで見えるように歯医者さんを見ていました。麻酔の注射を3ヶ所、針を刺した時も、痛いはずの麻酔薬を注入したときも、ピクリともしませんでした。「もしかしたら痛覚が無くなっているのでは?」と数ヶ月来思っていたことが事実だとわかりました。痒覚と痛覚は同じものだそうで、全身に発疹が出ても本人が平然としているはずです。でももし痒覚があったら、痒くてたいへんだろうと、容赦なく進行する脳の病気を考えて私は複雑でもあります。

 新しい発疹は出てないけれど、発疹そのものがななか良くならない、という状態だったのですが、一昨日新しく小さな水疱が見つかり、きのう皮膚科のドクターが「線状IgA水疱症」の可能性があること、後日説明資料を持ってきます、ということでした。帰宅してインターネットで調べたら、「自己免疫疾患の一種」とあり、まだしばらくかかりそうです。

 こんなわけで、中間報告ですが、続きはまた書きます。家を出てから病院まで、地下鉄一本で40分で着くので、3年前の真冬、小樽から2ヶ月半JRで通ったことを考えるとはるかに楽です。

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