介護日記

 

 2003年3月21日

 桜前線の北上は平年並みという予報は出ているものの、この地の春への歩みはゆっくりです。 マンションの窓から見える歩道の雪はまだ融けません。
 和子は退院後1ヶ月たって、教え子の女医の病院で太くて短い胃ろうチューブに取り替えました。チューブの先端部が直接胃に入り、長い間廃用化状態だった胃の消化作用も復活へ向かうでしょう。最初の手術で入れたチューブは胃を通って十二指腸まで入っていたので、胃からの消化液の分泌は少なかったでしょう。栄養剤の効能書きには「完全消化剤」とあるし、和子は血色もよくて一見病人には見えない顔つきになっていました。でも人間の生理は、胃袋から食べ物を入れて消化するのが本来なのでしょう。まだチューブはミキサー食を入れるほど太くないので、当分は「経腸栄養剤」のご厄介にならなければなりません。

 アメリカがイラクに48時間以内という期限を勝手に決め、期限切れの昨日から空爆を、そして地上軍の侵入を始めました。開戦のための国連決議の可能性も無く、米英にオーストラリアの3ヵ国しか実戦部隊を投入しない戦争だから、その不人気ぶりがわかります。イラクの国連大使が「大統領が別の国の大統領に国を去れと命じるのは歴史上初めて。正気のさたとは思えない」と語ったのが、それなりに説得力があります。
 「国連に反して法を犯して武力行使すると、深刻な責任を負うことになろう」フランス・シラク大統領。「私の答えはノーだ」ドイツ・シュレーダー首相。「スペインはいかなる攻撃にも参加しない。スペイン軍を作戦の恐怖にさらさせることはない」。米英スペインの3首脳会談で武力行使を支持していた筈のスペイン・アズナール首相の国会演説です。
 フセインがとんでもない大統領だとしても、それを取り替えることが出来るのはイラク国民だけでしょう。「大量破壊兵器を保持する、危険な“ならずもの国家”」というのはどこの国のことでしょう。世論調査で国民の大多数が反対だというのに、それでもアメリカ支持を公然と宣言する日本の首相、平和憲法の存在などどこ吹く風です。日本国内の米軍基地や外国大使館、空港なども大量の警察官を動員してテロへの厳戒態勢だそうです。これは日本政府の対応がみずから招いた危機管理態勢だとしか思えません。アメリカへの一方的な肩入れがもたらしたものでしょう。3連休に出動させられる警察官の休日手当ては税金から無制限に出すから平気なのだろうけど。

 フランス・ドイツ・東京・そしてアメリカでもニューヨーク・ワシントン・シカゴ・サンフランシスコ・そしてお隣の韓国でも、大規模なデモの様子が報じられています。症状としては重度の和子の元を離れられないので、札幌でも行われている集会やデモにも参加できないけれど、思うのは一人の“いのち”でも、こんなに大切にして守らなければならないのに、イラク国内で必ず生まれる筈の何十万人の“いのち”の大切さを、ブッシュやこの国の首相は何と思っているのでしょう。ブッシュが口にする神という言葉を聞くと、アメリカのプロテスタントの神はそんなに好戦的な神様なのかと不思議です。ローマ神話の軍神マルスとは違う筈だけど、そのプロテスタントの国アメリカ国民のブッシュへの支持率が、開戦が決まったあと10%も跳ね上がったというニュースも怖しいです。

 次の便りは、札幌円山公園の桜だよりでしょうか。イラク戦争の行く末が気がかりですが。

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