2001年11月21日 2001年最終号

 雪が何度か降りました。でも積もることもなく、ダム湖園地に残った雪もじきに消えました。紅葉の季節も終わり、今は見事に黄色くなったカラマツ林がきれいです。この数日、また暖かい日が戻り、毎日和子をダム湖に連れ出して一緒に歩いています。遠くの朝里峠のあたりの山なみはもう真っ白です。

 北原白秋の『落葉松(からまつ)』という詩を思い出しました。

 「からまつの 林を過ぎて からまつを しみじみと見き   からまつは さびしかりけり 旅ゆくは さびしかりけり」

 この近くのカラマツ林は、山の稜線沿いに、ずっとつながっていて、たぶん白秋が見た本州のどこかの風景より、ずっと雄大なのだろうと思います。

 前に、和子の「コンサート復帰」のことを書きました。そのあと9月・10月と小樽のコンサートに行きました。同じ友人が札幌から来てくれるというので、電話で予約して、車椅子席と駐車スペースを用意してもらいました。  9月はロシアのコンスタンティン・シチェルバコフという若いピアニストの演奏会で、バッハのソナタ、ベートーヴェンのソナタ23番『熱情』、ラヴェルの『夜のガスパール』など、和子がよく知っている曲でした。  10月の演奏会は夜でした。夕方迎えに行って、夕暮れ前のダム湖に行き、そのあと家に連れて帰って夕食を食べました。マンションの入り口の段差は、二人掛かりで越えられました。  コンサートは、オーストリアのクラウス・パイシュタイナーとヨーロッパで活躍している日本のピアニスト遠山慶子のデュオリサイタルで、メンデルスゾーンのヴィオラ・ソナタとシューベルトのアルペジオーネ・ソナタでした。このシューベルトの曲は、放送やCDで何度も聴いているけれど、いつもヴァイオリンやチェロの陰で地味な楽器のヴィオラが、こんなによく鳴る楽器だったのかと、改めて思いました。和子は何も言わなかったけれど、やっぱりそう思ったのでしょう、何度もうなずきながら聴き入っていました。  夜の演奏会は、ホームに帰るのが消灯時刻の9時を過ぎるので、ホームの了解を取って出かけたのですが、帰って寝る準備をしてやってベッドに入れて、そのあと友人をJRの駅まで送りました。彼女は「和子さんのためなら、何でもします」と言ってくれます。

 和子は11月に65歳になりました。「めでたく」というべきか、介護保険・第1号被保険者の仲間入りです。1年間の暫定半額期間が過ぎて、私が払う保険料は倍に、そして和子も同じぐらいの保険料になりそうで、2人合わせて今までの4倍です。和子はその介護保険のお陰で生きているのだけれど、いささか負担が重くなるという実感があります。

 フト思いついて、初夏の頃行ったことのある、札幌の南区の小さいレストランで、誕生日のお祝い昼食会をしました。いつも一緒の友人は旅行中なので、同じ学童保育の時の仲間を2人お誘いして、楽しい会になりました。12時から1時頃まで、日曜日で、まだ他のお客さんがいらっしゃる前の時間で、私たちだけの貸し切り状態でした。昔私たちが歩いた山道を車で越えました。もうじき、この山道も冬の通行止めになるでしょう。  食事の後、ケーキを買って、そのうちの一人の方の家に行って、続きの会をしました。3年前に家で録画した『歌う和子』のテープを持っていって、みんなで見ました。「自分が歌っている」という認識はもう無いようだけれど、和子はずっと楽しそうでした。

 自宅のマンションの入り口にある、手すりのない段差を和子はもう自分では越えられなくなったので、在宅復帰は不可能になりました。でもこの1年、さまざまな出会いがあり、いろいろな「社会復帰」が実現できました。毎月歯医者に通い、毎月コンサートに行き、そして2ヶ月毎に美容院でヘアダイとカットをして、おしゃれも楽しんでいます。

 今年は、私の旧制工業学校時代の友人や、電話局時代の仲間の訃報が相次ぎました。B型肝炎やC型肝炎など、子どもの頃の校医の注射針回し打ちや輸血が原因の急性肝炎がずいぶんあるようです。いのち長き時代だから起きていることかも知れないけれど、そら怖ろしい時代でもあります。でも、血液検査と腹部CTと例年の胃カメラ検査も全部クリアーしました。

 今年も札幌地区の高校登山大会にも2度参加できたし、初任地の浦河高校山岳部のOB・OG登山も続けています。今年はまだ1度も胸のアタックがありません。暖房を少し贅沢に使って、冬を乗り切ろうと思っています。

 今年は、1年前には誰も想像も出来なかった、「先が見えない」新しい世紀の幕開けになってしまいました。でも、とにかく私たちは無事に1年を終わることができそうです。和子の病気はやはり進行しているけれど、残っている部分の新しい発見もあり、希望を持って生きていこうと思っています。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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