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 「ぼけなんかこわくない」??

 1月24日の朝日新聞の INFORMATION というお知らせ欄に、介護支援セミナー「ぼけなんかこわくない」という催しの案内が載りました。「介護の負担を軽減するのを目的に、痴ほうの症状など特徴について正しく理解する」という内容で、医師が講師をするようだけど、この企画をした人達は、本当に「ぼけなんかこわくない」と思っているのだろうかと不思議です。日々介護に当たっている家族で、「ぼけなんかこわくない」と思う人は居るのでしょうか。

 長寿社会文化協会生活科学研究所という団体の主催で、受講料は無料だと書いてあるから、多分補助金か何かで税金が使われるのでしょう。

 妻の病気が判って8年余りです。でも脳の萎縮などから推定して、その数年前に発症していたことは確かだと初診の時の医師は言ったから、本人はもう十数年もこの病気の、記憶が薄れて行く不安、「こわさ」と闘ってきたのです。“教科書”に、いとも簡単に「人格崩壊」などと書かれている、その「崩壊過程」を、本人は必死になって孤軍奮闘して闘ってきたのです。私も彼女の病気が判ってからは、寄り添って“戦友”であり続けようとはしてきたけれど、本当の戦友と違って、同じ闘いを本人と同じ重さで闘うことは不可能なのです。

 私は何かに集中出来るとき、その「こわさ」を忘れることも出来るけれど、和子は1年365日、片時もその「こわさ」から逃れる術もなく、この十数年を過ごしてきたのです。和子が、あの優しい小さな胸で、一人で病気と闘ってきたのだと思うと泪が出ます。

 介護者の負担を軽くするつもりで言っていることなんだろうけれど、こんな軽口で介護者の負担を減らせますか?

 いったい誰にとって、「ぼけなんかこわくない」のですか?

 私はこんなことを平気で言う人達を許せません。

                    2001.1.28