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 『民族の祭典』『美の祭典』は芸術作品か!

 ---ナチスの亡霊がNHKで放映された---

 オリンピックが終わりました。わたしのような世代の人間にとっては、オリンピックはアマチュアスポーツの祭典だという認識が強いので、近年のオリンピックにはとまどうばかりです。  買収と金権疑惑のまま、法外につり上げられた放送権料を物ともせず、NHKは「全部見せます」と恥ずかしげもなく連日コマーシャルを流しました。

 そして新聞の週間テレビ欄の予告で、NHKがナチスの映画『民族の祭典』と『美の祭典』を9月12・13日に放映するのを知って仰天しました。この映画のドイツ人女性監督、レニ・リーフェンシュタールは、1934年ナチス党大会の記録映画『意志の勝利』を撮り、その後ヒトラー直々のお声掛かりで、1936年のベルリン・オリンピックの記録映画2部作『民族の祭典』『美の祭典』を撮撮したのでした。

 この映画が日独伊3国同盟の友邦国の日本に輸入されたのは、映画が封切りされた1938年頃だと思うから、当時軍国少年だった私が岐阜の映画館で見たのは、多分8歳頃です。学校の全校観覧だったかもしれません。その頃ヒトラー・ユーゲント(ナチス党の青少年組織)も来日しています。前の年に日支事変は始まっていたし、子ども(小国民と言われていました)迄巻き込んで、国民精神総動員態勢がはじまっていました。日本が泥沼の太平洋戦争に突入する前夜です。

 戦後、この女性監督はナチス協力の疑いでフランスで逮捕され、2年後釈放されたけれど、ナチス協力を自己批判はせず、アフリカに渡って先住民の記録『ヌバ』を撮ったりして、その写真展が札幌のパルコで開かれました。同じ頃『民族の祭典』や『美の祭典』も映画館で上映されました。曰く付きの映画であることは、もちろん新聞でも記事になったし、私も軍国少年の時感動した映画がどんなものか確かめたくて、再度映画館に足を運びました。子どもの時見ていない(2歳です)和子も一緒に行きました。  改めて軍国主義時代の洗脳の恐ろしさを、自分の記憶で確かめた思いでした。『民族の祭典』はナチスドイツの国威発揚映画で、得意満面のヒトラーが写されていたと思います。『美の祭典』は記録映画というよりは、レニ・リーフェンシュタール独特の「映像美」という切り口で作られていました。

 1938年のドイツのオーストリア併合、翌年のポーランド侵攻と、ヒトラーによる長い戦乱の時代が始まっています。1945年の大戦終結までの6年間だけで、アジアも含めて何千万人の人命が失われています。この映画はその第2次大戦の幕開けのヒトラーの「宣伝映画」だったと、今にして私は思います。

 病院の待合室のテレビで、NHKの若いコマーシャルガールが、「この芸術映画をお見逃し無く」とか、ニコニコ気楽に言っているのを見ました。

 こんな曰く付き映画を、何の時代背景の説明もなく放映するNHKの無神経さは、ただ事ではないという気がします。ナチス時代の戦争責任を、戦後55年経った今も追及し続けているドイツでこの映画が上映されたら、ただでは済まないでしょう。

 新聞も何も書いていないのが気になります。視聴者から膨大な聴取料を集め、会計検査院の検査も受けず、「全部見せます」という結果のこの退廃振りは、尋常ではないと思います。肥大した機構の中でチェック機能が働かないのかと思います。

                    2000.10.25