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<日本の福祉についてひとこと その9

『嫌音権』について再論

  難聴になった高齢の方には、耳元で話せば聞こえる例が多いこと、ただ音量を大きくしても効果が無いという事実がこの"プロの"現場ではほとんど理解されてないようです。私は老親4人の相手をして経験があるからそれがよくわかります。

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 前回こう書きました。そのことをケアプラン作成の会議で話しました。そうしたらナースの1人から、「それは後藤さんだけの経験でしょう」と言われました。知らないのなら、私が高校生に物理の授業で教えたことをレクチュアーするしかありません。
 

 「音のエネルギー(耳に達する音圧)は距離の2乗で球面空間に拡散」します。S=4π×rの2乗で、半径rが4倍になると、球の表面積Sは4の2乗=16倍になります。
 逆に言えば、4分の1の距離で話せば、耳に達する音の大きさ(音圧)は16倍になります。こんな理屈は、きちんと教えれば中学校1年生だって判ります。
しかも大きい声を出せば、声のキーが高くなること、そして高音域の音は低音域のそれより聞き取りにくいという”事実”もあります。同じ相手に対して、近くで話せばこれだけ結果が違います。

 ここ4年の間に3度の入院を経験し、患者の立場で、ナース達の声の暴力に悩まされました。「忙しければ大声を出すのは当然。患者にとって、それがうるさかろうと関係ない」という雰囲気がありました。

 こういう、私にはナーシングの基本になると思われる知識を、看護学校で教えてないのは奇怪なことだと思います。教え子にナースが何人もいますから、確かめたことがあります。
 私が話した私たち夫婦の親(4人です)の実例は、何も特殊なことでなく、物理現象の”定理”です。まして高齢者は片方の耳がより聞こえ辛いというのも極く一般的です。高校生だって聴力テストをすると、左右で随分違うのです。
 
お年寄りは耳が聞こえにくい」とスタッフが大声を出したり、館内放送を大音量でやっていることなど、ナンセンスそのものだし、音の暴力、騒音発生源でしかありません
 あわせて、入所者にストレスを与える(和子の場合は、ビクッとするので判ります)ような音が、
その人の心にどんなに深い傷を残すかも、ナーシングや介護教育のカリキュラムには全く入っていません。研究もされていないんでしょうか。
 

 介護保険の実施を目前にして、心のケアをどうしようとしているのか、そら恐ろしい現実です。マスコミも保険料と利用者の自己負担ばかり問題にしています。心のケアなど、話題にもなっていません

 憲法の、「健康で文化的な・・・」という精神など、どこかへ置き去りです。

                     '99.8.28