'99年7月24日

 

FM放送で、キーシンが演奏しているベートーベンの『月光ソナタ』をひとりで聴きました。北海道もここのところ梅雨空です。 

 それでも素敵な6月があって、青空と新緑と花を堪能できました。和子を入れた写真もたくさん撮りました。

 小樽の6月の花”谷ウツギ”が山あいをピンクに彩りました。本州に咲く白い”ウツギ”(ユキノシタ科)とは別のスイカズラ科だと図鑑で知りました。花は似ているし幹はやはり中空ですが。

 梅雨が明けたらまた素敵な夏が来るでしょう。

曲はバレンボイムが弾くシューマンの『謝肉祭』になりました。

彼女と過ごした札幌の30年は、二人とも忙しくて演奏会に行く機会はそんなに多くなかったのです。でも音楽で出会った私たちには、ベートーベンもシューマンも忘れられない作曲家です。

3年ほど前にBS放送で見た、チェリストのジャクリーヌ・デュプレの生涯を描いたドキュメンタリーがありました。バレンボイム夫人だった人ですが、難病で亡くなっています。その番組の録画を一緒に見ていたとき、和子は「この人亡くなったんだね」と言いました。有名なチェリストだったようですが、私は知りませんでした。

仕事を辞めて時間が出来たので、彼女が持っている貯金からいろいろ分けてもらおうと思っていたのに、病気の進行の方が速くて叶わなくなりました。

 

晴れた日にホームの近くの公園に行って、白樺の木の下の木陰で歌っていたら、女の子と男の子が「なに歌っているの」とそばに来ました。  

 小1の姉とその弟だというので、「何か一緒に歌おうか」と言って『となりのトトロ』と『さんぽ』(同じアニメの主題曲で「あるこう、あるこう・・」という)を一緒に歌いました。

 去年買ったCDで和子はメロディーだけはしっかり覚えたので。そんなとき彼女はご機嫌です。
青空の下、涼しい風が吹き抜けて、ちょっと贅沢なひとときでした。

 

 箸やスプーンを自分でうまく使うことができなくなりました。私が口に入れてやると「おいしい」と言うから、自分で食べられなくなったことが今までと違うと思う病識はもう無いのでしょう。
 「アルツハイマー型は脳血管型と違って病識は出ない」と言われますが、この何年間ときどき病識が戻ることがあり、相手をしていて辛い日々でした。今でも不安なときは「私この頃・・・」と泣いたりします。そんな時はただ抱きしめることしか私にはできないのですが。
 最近もMRIを撮ったけれど、彼女に脳血管型の症状は無いようです。 

    

 和子が特養ホームに入居しました。いつかはそんな日がくるかも知れない、そんなときの安心のためにと以前に申し込んであったのが、現実のものになりました。
 ショート・ステイの利用希望が増えてベッドのやりくりがつかなくなった(週4晩も使っていたので)というホーム側の事情と、来年の介護保険実施後の見通しが全くつかないことで、ホームからの提案を受けることにしました。

 市からの許可が出て、2,3ヶ月のうちにということで心の準備をしようと思っていたのが、急に空きが出て入所が決まりました。
毎日会いに行きますが、彼女はひたすらホームの廊下を歩いています。食事を食べさせたり、一緒に歌って過ごしています。不安定な時は声もよく出ないけれど、良い時は音程も確かで、昔覚えた歌詞もどんどん出てきます。

 ”終の棲家を移した”ことの重さをかみしめています。
今回はこれにて。

  

 

6月5日

 ホームの近くの公園にて 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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