介護日記

 

 2011年8月25日 プロメテウスの火

 かつて原子力が「プロメテウスの火」と、たとえられたことがありました。ギリシア神話では、神々の火を人類に伝えたことによってゼウスの怒りにふれたとありますが、やはり原子力は、愚かな人間が持つべきではない神の火だったのではなかったのだと思います。
 プロメテウスが人間に火を与えた神話の後日譚がパンドーラの神話で描かれてます。前回の日記で、私は「日本はパンドーラの箱を開けてしまった」と書きました。

 作家の池澤夏樹が「核エネルギーはどこか原理的なところで人間の手に負えないのだ。それを無理に使おうとするから嘘で固めなければならなくなる」と朝日新聞の連載に書いていました。それを14日の天声人語でも紹介しています。

 京大原子炉実験所のK助教授は語っています。「少なくても、原子力は即刻やめるべき。大切なことは、エネルギーを膨大に使う社会がおかしいということに気が付かなければいけない、と。

 3.11のあと、国内で唯一試験運転を続けていた泊原発3号機に、高橋はるみ北海道知事は、愚かにもゴーサインを出しました。「愚かにも」と繰り返す他ありません。既に交付金をもらってしまっている周辺4カ町村以外の周辺町村はみんな反対です。

 13日の新聞に、独立行政法人・産業技術総合研究所が、黒松内低地断層帯が、北電の見解と違って、太平洋の海底まで達する規模が大きい活断層群であることが判ったと発表しています。

 炉心溶融を起こした福島原発を中心にして、半径20キロとか30キロとかの円を描いて、その外は安全だなどといっている原子力保安院の連中は、アタマがどうかしているのではないかと思います。福島から100キロ以上離れた静岡の茶葉から放射性セシウムが検出されているのです。風が吹けば放射能を帯びたチリはどこへでも飛んで行きます。春先に中国から飛んでくる黄砂は何千キロも飛んでくるのです。

 事故が起きなくても必ず出てくる高濃度・低濃度放射性廃棄物をどうするのか。政治家の中で一番はっきりしているのは、「みんなの党」の渡辺代表です。今は原子力が安いと言っているけれど、事故がもし起きないとしても、廃炉・廃棄物・それの永久の管理まで考えたら、天文学的な数字になる」と言っています。私も全く同感です。
 いま泊3号機を除いて、日本中に営業運転をしている原発はありません。それでもこの猛暑を乗り切ったのです。冬になったら、「エアコンの使用が増え、どうなるかわからない」という説もあるけれど、計画停電、電車の間引き運転、工場の稼働曜日を変更するなど・・・不便になっても、誰も死ぬわけではない。

 我が家は北海道に住んで40数年、エアコンも扇風機もありません。ほんの短期間使うために、無駄なことはしないで済ませてきました。「病院が停電で、手術が中止になった」という話もありました。今度の事件(事故ではない)に懲りて、強力な自家発電設備と外部からの送電網を強固なものにすることです。それに税金を使っても国民は怒らないでしょう。

 そして重大なこと。原発ジプシーのことです。一日何時間か働くと、センサーが鳴って、普通の人が一生の間に浴びる放射能の許容量になるとか。チェルノブイリの事故の時の決死隊を考えるまでもなく、たくさんの作業員が亡くなりました。あの白い防御服では、放射性物質は防げても、α線・β線・γ線、そして中性子線は防げません。私は原子物理学は勉強したし、生徒にも教えました。

 原子工学は詳しくはないけれど、一般の人よりはわかるつもりです。かつて札幌西高で物理を教えた生徒がいました。あの東海村のイエローケーキ事件の時、彼は大阪大学の原子力工学科を出て研究所に勤めていました。彼は同窓会の自分の学年ホームページに、「たった3人しか死んでない。そんなに騒ぐことではない」と書いたのです。彼を教えた記憶があったので、その学年の、2年生が終わるときの感想文を探し出しました。キュリー夫妻がひどい悪条件の中でラジウムを見つけ出したこと、そのラジウムがまだ人体に与える悪影響が知られて居ないときで、ちょうど第一次世界大戦が始まっていた時で、前線におもむいて戦傷の兵士たちにX線治療を行いました。そして研究のせいで最後は白血病で亡くなったことを学年の最後の授業で話したのでした。その感想文に彼は、「怖ろしい放射能を平和目的に使わなければ」と書いていました。原子物理学と原子工学とは違います。選んだ大学の学部によって、こんなに人間は変わるのかと思いました。

 以下は朝日新聞18日の社説の一部です。

 「福島県南相馬市で除染活動にあたる東大教授の医師児玉龍彦さんの国会での証言が反響を呼んでいる。今回原子炉から出た放射性物質はウラン換算で広島原爆20個分、そのうえ減り方が格段に遅い。これを取り除くことを抜きに安全を論じても始まらない、新法を作り國を挙げて除染に取り組め ――と児玉さんは訴える。ひとたび原発事故が起きれば、途方もない環境被害を引き起こすことを思い知らされた。

 社説氏が書いていることは深刻です。北欧の何カ国は、ノルウェイの岩盤を何キロも掘り抜き、何万年先まで廃棄物を閉じこめる工事をやっているとか。何万年先とは、人間社会が今のままあるかどうか。
 日本の政府や財界が、ほとぼりが醒めたらまた運転を再開し、おまけに原子炉を作って売り込むことを考えているようです。

 書き出せばきりがないけれど、私はやはり何万年先の人類社会を考えます。和子は何年振りかで熱を出したけれど、一日で治まりました。あまり先のことを考えずに、おだやかに過ぎていけばいいと考えています。この秋9月、2ヶ所から「ご一緒に」と、音楽会に誘われています。大脳の神経細胞が全くなくなった状態で、和子はどこを使って音楽を聴いているのかわからないけれど。

 教え子の動物生態学者で、早世した新妻昭夫のことは、また別の日に。

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