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 再論:「アルツハイマー病:告知の時代

 〜みんなで勘違いすれば、怖くない〜」のですか???

 もう1ヶ月も前のことですが、前回のメールマガジンに引用した、大阪のナースからメールがきました。

 ≪土曜のNHKのドラマ『つま恋』見ました≫
> 松坂慶子演じる主人公が、若年性アルツハイマーを告知される所から
> 始まりました。やりきれない気持ちでした。
>

 ホームのスタッフの一人も見ていて、「何であれが芸術祭参加作品なんでしょうね」と言いました。教え子が録画したというので、テープを借りて見ました。  「“告知”ということだけが一人歩きしている」と改めて思いました。
 テレビドラマというものを近頃ほとんど見ないけれど、ドラマとしても出来が悪く、美人女優を見せるためだけのドラマかと思いました。

 働き盛りの大学教授(松坂慶子)に直接告知をする医師、告知されて混乱におちいる主人公、夫婦両方の不倫までストーリーに入れて、ただのメロドラマになっていたけれど、その話の種に、“アルツハイマー病の告知”という重いテーマを使って、この製作者は不真面目でないかと思いました。おまけに、医師が夫を呼んで、本人のいる前で、「奥さん、財産もお持ちなんでしょう」と、成年後見のことまで持ち出すというオチまでついています。

 最後の方で「100、93、86、79、72」と、新しいことの記憶喪失が進んだ本人が、病院で医師から検査を受けた、「100から7ずつ引く計算」を思い出して独り言を言ったりするのも奇怪だし、きちんと会話ができる本人が車椅子で出てきたり、家事が堪能でない夫がエプロン姿で唐突に出てきたり、終わりのクレジットに「医事考証」と出ていたけれど、本当に専門家の医事考証なのかと思いました。

 たぶん、もう第15病年を越えた私の妻の和子は、今でも自分の足で歩いています。「要介護5」で、介護保険認定調査の項目の中では自分の意志で出来ることは何もないけれど、それでも自分の足で歩いて、笑顔を交わすことはできます。もう10年近く前、記憶が確かでなくなったドラマの主人公と同じぐらいの症状の頃、和子は私と奥多摩の山を歩き回っていたし、今も歩いています。

 只のメロドラマなら、そんなのは見る人が評価すればいいのだけれど、“アルツハイマー病の告知”という大きな問題を種にして、こんな質の低いドラマを作る、その安易さを私は許せません。
 そして大阪のナースやホームのスタッフや、テープを貸してくれた教え子がそうであったように、見終わったあと「やりきれない思い」をした人が多かったのではないかと、私は思います。見終わって感動したという人いるのでしょうか?

 同じ芸術祭参加作品の民放のドラマ、西田敏行主演の『がんばらない』(諏訪中央病院の鎌田医師の同名原作のドラマ化)を私も見ました。末期癌と向き合う医師を初めとする病院スタッフの謙虚さと、“いのち”への畏敬があふれていた、ヒューマンで感動的なドラマでした。

 日本には、テレビドラマ批評のジャーナリズムは存在しないのかなあと、対照的なドラマを2本見ての感想です。

 新聞の書評欄で、ある女性作家が本の中で、「日本人は下品になったというより鈍感になったのだ」と書いているのを読みました。本当にそう思います。

 「みんなで勘違いすれば、怖くない」のですか???

                    2001.12.27